【ダシマス老舗・中原三法堂】“義”と“人”――134年の歴史を受け継ぐ木村社長の想いとは

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written by ダシマス編集部

創業100年以上の老舗企業に焦点を当てる本企画。持続的な成長と成功をおさめ、時代をまたぎ社会に貢献してきた歴史を紐解き、その長い期間によって培われた文化や知見から、多くの人に気づきとインスピレーションを与えることを目指しています。

岡山エリアから紹介するのは全部で5社。本記事では株式会社中原三法堂(以下:中原三法堂)の代表取締役社長である木村謙吾(きむら けんご)さんにご登場いただきます。

仏壇仏具を通じて、お客様の大切な想いを形にし継承するお手伝いをすること。それが中原三法堂が果たす役割であると話す木村社長。自社の経営や組織運営の肝となるのは、とにかく“人”であると言います。そんな木村社長の想いを紐解きます。

代表取締役社長 木村 謙吾(きむら けんご)さん

代表取締役社長 木村 謙吾(きむら けんご)さん

岡山県倉敷市出身。1997年9月中原三法堂入社。営業職として笹沖店に勤務。1998年に県外初出店の福山市蔵王店に異動となるが、その後笹沖店に復帰し2006年に笹沖店店長となる。2014年に社長室室長を担い、2021年11月に現職の代表取締役社長に就任。「第一義」を常に意識し、中原三法堂に関わる全ての人の満足度が上がるために最善を尽くす。

取材・執筆:大久保 崇

取材・執筆:大久保 崇

『ダシマス』ディレクター。2020年10月フリーランスのライターとして独立。2023年1月に法人化し合同会社たかしおを設立。“社会を変えうる事業を加速させ、世の中に貢献する”をミッションとし、採用広報やサービス導入事例など、企業の記事コンテンツの制作を支援する。

お客様の大切な想いを届ける“志事”で紡いだ134年の歴史

——中原三法堂の創業から今に至るところをお聞かせください。

中原三法堂は明治22年(1889)に創業し、今年(取材時:2023年9月)で134年を迎えます。私は建築業界でエレベーターの据付をする職人を経て、中原三法堂に入り今26年になります。まだまだ中原三法堂の歴史のなかでは浅いです。

 

——社長になると決めた時のことを教えてください。

社長に就任したのは2021年11月ですが、非常にあっさりしたものでした。就任する幾分か前から、現会長である先代と「いつか世代交代を」みたいな話はしていたものの、もう少し先の話だと思っていたんです。

ですがある休みの日に、急に先代から電話がかかってきて一言、「代わるわ」と。最初は何のことかわからず適当に話していたら、それが社長交代の話だったんです。それからすぐに会いに行って話をして、半日ほどで正式に社長交代が決まりました。

弊社は決算が10月なのですが、この話が出たのが10月の初め。2日後に迫っていた幹部会の前に全部段取りを決めて、あっという間に話が進んでいきました。従業員もみんな驚いてましたね。

――仏壇や仏具を扱うこの業界には崇高なイメージがあります。業界の特徴など教えてください。

私たちの仕事はお客様の人間関係の深いところまで関わります。御位牌さんがある場所は玄関先ではなく家の奥です。普通には入れないところへ入っていき、ご先祖様に御位牌さんという形でお会いし家の歴史の奥深くまで関わっていく。こうした特殊な仕事をさせていただくことを、私はとてもありがたく思っています。

私たちは小売なので物を売るのですが、あくまで物は形だけです。実際に売っているのは「心の想い」。私たちの商品は単純な欲で買う商品ではなく、想いや気持ちを届けているんです。

 

——最近ではお墓を作らない、仏壇を自宅に置かないなど新仏具との付き合い方に変化が表れているように思います。業界の当事者としてこのような変化をどのように捉えていますか。

変わって当然だと思っています。お仏壇・お墓の形、永代供養や樹木葬といった形式にも変化していく。ですが、亡くなった人を供養したいという想い自体はなくならないでしょう。亡くなった後の葬儀の仕方や祀り方はさまざまですが、「供養しない」という選択を私は聞いたことがありません。

私たちが大事にすべきは、形ではなく「想い」に寄り添えるかです。その方が、仏様をどのように大事にしたいと考えているか、そこに寄り添ってお手伝いをするのが私たち。仏具、お仏壇、お墓など、宗派やルールにのっとった上で、ご家族ごとにある程度の自由があっていいと考えています。

ある物を売るのではなく、お客様が求めているものに、私たちがどれだけ寄り添い応えられるか。それが私たちが担っている“志事”です。

 

“義”そして“人”――木村社長の芯

——木村社長が大事にしている価値観や考え方を教えてください。

私は人に対する“義”を大事にしています。わかりやすく言うと、とにかく自分より人なんです。自分は最後でいいと思っていて、常に自分以外の誰かを大事にしたいと考えています。

 

——134年の伝統を受け継ぎ、今も順調に経営されているかと思います。長く事業を継続できる秘訣は何でしょうか。

“人”です。

技術や知識も大事ですが、人の考え方や感性が私は特に大事だと思っています。これまで長い歴史で培われてきた中原イズムを継承しつつ、私たちが次の時代へ進むために新しいエッセンスを取り入れていく。過去に捉われすぎない、かといって新鮮すぎないハイブリッドな取り組みをしてきた結果が今です。

 

——古きものと新しいものの融合が肝だということですが、受け継がれてきた中原イズムとはどういう思想なのでしょうか。

わかりやすく言うと「裏切らない」ことです。

たとえば仕入先とのお付き合い。経営者なら、利益が得られそうな取引先が他にあると思ったら、変えてしまおうかと考えることはあるでしょう。会社を経営する上で、利益の追求を考えると当然の選択です。

しかし私が知っている先々代も先代も、そういうことは絶対していません。先方からの申し出により関係が終わってしまうのは仕方がないですが、中原三法堂から関係を終えることは絶対になかった。もちろん、取引先だけでなくお客様のことも裏切らないのが中原イズムです。

 

——中原三法堂にとっては、関わる全ての人が大事なのですね。

そうですね。圧倒的に“人”を大事にしています。もちろん従業員もです。

関わる全ての人たちと、もっと気軽にコミュニケーションが取れるようにと思って社長室をオープンにしています。そういったこともあってか、みんなが私の社長という肩書きを気にせず、近づきやすいと思ってくれているようなのでありがたいですね。

私も少し前までは現場で働いていましたから、今でもお客様から気軽に声をかけていただくこともあります。会議中とかでも気にせずお客様を優先してしまうので、「会議が進まない」と怒られることもありました(笑)。

▲「そうです。会議が進みません(笑)」と話すのは広報部部長の小田さん。

 

――社長になった今でも現場が好きですか。

好きですよ。それに私は最前線、つまり現場が一番凄い大変だと思っています。だからその最前線で頑張る人たちが活躍するため、いかに手助けをしてあげられるかも私の大事な仕事です。

社長を含め役職社員や先輩、男性女性、新入社員かベテランかというのはお客様には関係ありません。私が社長だからといって、営業しないとか配達しないというのは私の中にはないんですね。お客様は一個人として私を見てくれています。それならきちんと応えないと“人”を大事にしているなんて言えません。

 

——とはいえ、社長にしかできない仕事もあるかと思います。特に経営など。社長にしかできない仕事をしながら、現場にも関わっていくというのは難しいのではないでしょうか。

できることは進んでやろうという気持ちですし、それを苦に思ったことはありません。ですが、全部を私がしてしまうのもよくないので、きちんとバランスを見ながら現場の仕事に関わっています。

社長だから経営のことだけしてればいいと思っていないので、もっと現場に出たいくらいですが、私が出たらダメだと言われるのでそこは我慢していますね(笑)。

 

本気で人に寄り添うことができるのが人間力

——古きと新しきのハイブリッドな取り組みをされてきたとのことですが、進めていく上で難しいこともあったのではないでしょうか。

自分ではどれだけできているかわかりませんが、今いる従業員たちは新しいことがどんどん生まれていると肯定的に思ってくれています。社内外からも、会社がさらに進化してきていると言っていただけるようになってきました。

私は常に、それがなんのために必要なのか、基本的に「なぜ」を考えて行動しています。みんなが満足しないことならば、それをする必要はありません。大義がないことをするのは一番つまらないし、関わる人の時間を無駄にしてしまう。「なぜの是非」と私は言っていますが、その行動は是か非か、感情論に流されず判断してきました。

 

——変えていくことに対して、中には抵抗感を示される方も少なくなかったのでは。

そうですね。周りから見ると戦っているように見えていたと思います。私は決して、変化を拒むのを“負”だとは思っていません。変化を求めている人たちがいて、従業員や会社と真摯に向き合って最善を求めた結果の行動です。社長の前は室長という立場でしたが、その時からこうした考えを持って取り組んできました。

それもひとえに従業員のため、中原三法堂のため。その2つが私のブレない軸であり、私の果たすべき“義”だと考えています。

 

——中原三法堂に来て最初に感じたことが、思っていたよりも従業員に若い方がいらっしゃるということでした。

ありがとうございます。最初の接点となる入口が一番重要だと思っています。ミスマッチが起こって一番可哀想な思いをするのは入社した本人。だからその人の持っている思想や文化が、今の中原三法堂のカラーに合うのかお互いに見極めることが大事です。

正直なことを言えば、会社にとっては多少の出入りがあったとしてもなんとかなります。しかし入社された方の目線で考えれば、ミスマッチをしている会社に時間をかけたり、労力を注いだりするのは非常にもったいない。そういったことを限りなく起こさないようにするために、決まった内容だけを聞くのではなく、一人ひとりの人となりをきちんと見るために質問するし、反対に候補者の方からも質問をもらう。そういうことがお互いにできる面接を心がけています。

また、入社してもらったら「人を大事にしよう。それが一番大事なことだから」ということを伝えます。従業員の人間力を育てることをもっとも大事にしています。

——木村社長のおっしゃる「人間力」とはどのような力でしょうか。

人間力とは「どれだけ人に寄り添えるか」だと考えています。

単に「大丈夫ですか?」というだけでは寄り添いではなく、ただその人に近づいているだけ。本当に寄り添うというのは、相手の立場になって自分の姿を相手の目で見て、求めていることを本気で考えることです。たとえば今のような取材の場面なら「こういうことを聞きたいんだろうな」、「こういうこと言いたいんだろうな」というのを感じとりながら発言する。そうしたら、相手の熱はもっと上がるだろうなと考えています。

商売をしている人が、よく「お客様のために」と言うことがありますよね。この言葉を、会社側の都合で使っているなと感じることが時々あります。たとえば「今なら期間限定で安いですよ!」という提案は、一見すると安く買えるのでお客様のためのようにみえます。ですが、そもそもその商品をお客さまは本当に求めているのでしょうか。

しっかりとお客様の気持ちになりきり、今どういう状況で何を考え、私たちに何を求めているのか。そこを見極め、きちんと考えて提案する。それが本当の意味で「寄り添う」ということなんです。

 

若者たちへ――「知らないからおもしろい」世界へ挑戦してほしい

——良いチーム作るために心がけていることは何でしょうか。

まず思想やカルチャーを合わせることが大事です。いくら精鋭が集まっても向いている方向が違ったら、何も前に進まないので。みんなのパフォーマンスが発揮できる場所をつくることを第一に考えています。

私の中には「私がした」という言葉はなく、いいことがあれば「私たちが」とか「チームが」と思っています。常に個人ではなく全体の枠組みで捉えていくと、一人ひとりの力が重なって強く大きいチームができると考えています。

 

——中原三法堂の今後、未来の展望についてお聞かせください。

よく「拡大路線をとりますか」と聞かれるのですが、それに対しては「考えていません」と答えています。私は会社を大きくしたいのではないのではなく、会社を“強く”したい。みんなで人間力を高めた結果、大きくなるのはいいと思います。大きな箱を作ってからそこに人を入れていくのは違うんですよね。

 

——ありがとうございました。最後にこの記事を読まれる求職者へ向けて一言いただけますか。

ありきたりかもしれませんが、仏の世界は実際に関わってみないとわからないことが多いと思います。周りの誰も知らない、そんな特別な世界だと「大丈夫だろうか」と不安を感じたり、怖いと思ったりすることもあるでしょう。人は誰しも、知らないものは怖いと感じますから。

でも、その世界に入ってみると「知らないからおもしろい」ということが結構あるんです。初めて知る喜び、普通にはまず入っていけない領域へ入っていけるおもしろさがあります。

例えばお寺の中にある普段入れない場所。「ここからは立ち入り禁止です」という場所や、そのさらに裏側へ入っていくことになったり、普通に暮らしている中では話ができない人とも話ができたり。知らない世界を知ること、そこへ飛び込むことで「自分はもっとできるんだ」という発見や「もっと知りたい」といった探究心も磨かれていくでしょう。

若い方には色んなチャレンジをしてほしいと願っています。失敗を恐れず、ミスだってしてもいいんです。そうした経験が、次のステージに上がる力になりますからね。「エラーは成功への近道」。中原三法堂の行動指針10か条にも書いている言葉です。

知らない領域に飛び込んでいくおもしろさを知ってもらえたら嬉しく思います。

 

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